2021年3月例会 活動報告

こんにちは、東京INFINITY3月例回ブログ係の佐藤まり子です。

3月例会の目玉は、なんと言っても「写真家中西敏貴先生の技術向上セミナー」です。さらに2月撮影会作品の「フォトコンテスト講評」および「順位発表」があり、盛りだくさんの例会でした。

残念ながら、緊急事態宣言が延長されて3/21までとなったため、3月例会はZOOMによるオンライン開催です。序盤手短に事務連絡があり、すみやかにフォトコン講評会に入ります。


2021年3月例会フォトコン
今回のフォトコンは、2月14日に実施した撮影会の作品を審査します。東京INFINITYのフォトコンは会員間の互選です。会員が見て評価して順位をつける形式になっています。

緊急事態宣言下の撮影会の流れ
緊急事態宣言中で一箇所に集合できません。そこで撮影会当日は、いったん自宅などのオンライン会議にアクセス可能な場所から、各自参加します。

オンラインで集まった後は、以下の流れで撮影が進みます。

・zoom上に全員集合
・その場で初めて撮影会の『お題』が発表される
・『お題』は小澤先生考案の3候補から1案くじ引きで選出される
・つまり当日までお題は誰も知らない
(除:小澤先生)
・対象は撮影会当日に撮影した作品のみ

手順どおり進めた結果、2月撮影会のお題は‥

「めちゃめちゃ雑多だけどいい写真」

に決まりました。

これがかなりの難題で‥。私もがんばりましたが、結果的に惨敗です。他のメンバーが提出した作品を見ても、各自の苦労のあとが見て取れました。誰しもいつもとは勝手が違ったようです。

ただ、自分の中に「勝てるルート」がないテーマについて、試行錯誤するのは大事なことだと思います。

「こうすれば『そこそこ』いい写真になる」っていう、ある意味「正解」の作品を撮って満足しててもしょうがないっていうか‥。

満足の行く結果が出なくても、制限がある中で自分の頭で考えて実行してアウトプットした経験は、いつかどこかで報われるって私は思います。

あと考えて行動するのは自分1人でやらなきゃいけないんだけど、同じ時間に別の場所で、自分と同じ用に苦しんでいる仲間がいるということも重要。それを想像するともうちょっと頑張ろうっていう気になれるんで、コミュニティって意義深いです。

フォトコンの流れ
フォトコン作品はオンラインにて事前に共有してあり、投票は済んでいます。例会当日にやることは各作品の講評と結果発表です。以下の流れで進めます

(1)作品を順番に画面共有
(2)小澤先生が講評
(3)作者本人が解説(言い訳)

この日に飛び出した講評と言い訳をいくつか抜粋しますね。

フォトコン作品講評の抜粋
・背景の入り方やボケ感が適切でない。
・作品として引き付けられない(弱い)。理由は光がフラットだから。
・「喫煙注意喚起」プレートはいらないのでは。
・左手前の暗い部分はない方がいいが、なくなると平凡。
・良さが届きにくい作品。もし絵で描くなら、こう描くのか?この配置で描くのか?問うてみよう。
・画面を埋め尽くして雑多を表現しようとしてる。
・情報量の多さがちょっとおもしろいけど上手く切り取れてない。
・ブレによる時間のゆがみが面白いが、クオリティが低い。
・スナップとして詰めが甘い。
・カメラをここに向けたくなるか?いやならんだろ。なぜこれを撮ったか衝動が読み取れない‥。
・白いところと暗いところの分離バランスはいい。しかしPhotoshopでなど分離を強めたらもっとよかった。
・ピントはもっと絞ったほうが良かったと思う。
・主役(こども)下の何もない部分は埋めたほうがいい。
・リアル感と非現実感の組み合わせがいいのかどうか…。
・無駄に光がかっこよくて「めちゃめちゃいい写真」に対する解答がある。手前の自転車の車輪も意味がある。

小澤先生作例
小澤先生ご自身が撮影した作例も、講評終了後に発表されました。いわく「今回のお題を形にするには、下記2軸へどのようにアプローチして1枚の作品内でどう表現するか?に尽きる。」

・雑多へのベクトル
・作品としての見応え

この挑戦に対する先生の解答は以下の通り。


作例の撮影プロセス解説
作例制作過程を解説いただいたので共有しますね。


・まず、雑多のために何かで埋め尽くそうと思った
・そこで納屋の網を画面に入れた
・納屋の網を入れ込んで広角レンズを使うことでごちゃごちゃ感と規則性を両立した
・深度深くしたかったので絞りF14にした
・網への距離は少し離した(20cmくらい)。理由はその方が画面全体に網がイイ感じに入る。
・写真の中央がわかりやすくなるように配置して撮影
・網の穴に恐竜の顔がいいバランスで入るよう頑張った
・200枚くらい撮影して重なり合いのベストさぐった

この結果
「光の明暗と手前の納屋に差し込むわずかな光の対比が面白い写真になった」
とのことです。

これが「かっこいい」への小澤先生の解答です。

作例の仕上げプロセス解説
なおかつ作品のクオリティをUPするために、現像とプリントアウト時点で行ったことも解説いただきました。

・さらに表現を強化するため、Photoshopで周辺を焼き込んだ
・恐竜の右側の光はPhotoshopでちょっと明るくした
・用紙はピクトリコのパール使用
以上です。

結果発表
フォトコンの結果は以下の通り。

◎6席

『ヒカリ』中村さん

◎5席

『冬日和(ふゆびより)』津井さん

◎4席

『夕暮れ時』山口さん

◎3席

『集会』松原さん

◎2席

『モダンアート・「壁」』
福島さん

◎1席

『ある午後の情景』柳生さん

中西敏貴先生の技術向上セミナー

フォトコン終了後はお待ちかね、みんな大好き中西敏貴先生の技術向上セミナーです。中西先生は会員からの質問にとってもていねいにご解答下さいました!必見なセミナー内容を抜粋してお伝えします。


ーー【質問】瞬発力で撮影しているのでしょうか?
今は半分コンセプト、半分瞬間。大学の写真部ではスナップをやっており、過去にはその習慣がずっと続いてました。瞬発力で撮影した出会い系写真の集積が、2016年に発表した『Ordinary』。

今振り返ると、北海道移住前の写真は北海道愛に溢れた作品が多すぎ。移住後は「ロケに行く」というより「ふつうなら見過ごすような何気ない瞬間をどう拾い上げるか」という見方に変わりましたね。

コンセプトや軸のようなものは、常に3つ4つ持つようにしてます。今なら以下が併存しています。

・カムイの延長
・農家の暮らし、自然とのかかわり
・北海道という土地の成り立ち

このように、ある程度テーマは決めて撮りますが、日々の気持ちの変化も大事にしています。

変化と言えば、写真展「カムイ」でも、途中でコンセプトは変わりました。2020年早春にコロナが発生し、人間にコロナが与えた影響、自然と人間との関わりを再考するようになったんです。写真展には、コロナ以降に撮影した作品も入れました。

みなさんも「急に舵を変える」ということをやってみた方がいいですよ。

ーー【質問】カメラR5と三脚はどう使いわけているのですか?
カメラがR5、R6になって三脚を使わなくなりました。手ブレ補正がすごいので(笑。一眼レフ時代は、90%の作品で三脚使用でしたが、今は使用率が半分になりました。

他にもミラーレスカメラR5には

・視野率が高い
・高感度が使える

などの利点があるため、三脚による構図のしばりから解き放たれて、自由になりました。

ただし今でも、以下の場面では三脚を使います。

・30秒露光するとき
・構図を安定させたいとき
・逆光でハレ切りするとき(ハレ切りには黒雨傘使用する)

手持ちだとワンショットごとに微妙に構図がずれてしまします。自分は四隅の角の止め方にこだわっていますが、画面内にトラクターなど動きものが入って来ると、どうしても意識がそちらに取られ、構図が甘くなりがちです。だから三脚は今でも有効なんです。

ちなみにレリーズは持っていなくて、長秒時には2秒タイマー使います。

三脚の選び方も、以前とは変わりました。以前は重くて安定するものを使っていましたが、今はもう必要ないです。軽快さと、いかに素早く1枚目を撮影できるかを重要視しています。

ーー【質問】おすすめRFレンズは?
メイン使用:15-35mm、28−70mm F2、100−500mm、35mm単焦点
限定的に:24-105。山行きで荷物を軽くしたいときに使います。

雨の森に行くときは、28-70 F2をカメラにつけて、ポケットには35単焦点‥といった使い方をしています。
今1番欲しいのはRFのマクロレンズです。

ーー【質問】音楽(バンド活動)は写真にどう影響していますか?
実は大学入学時、軽音楽部に入りたくて見学に行ったが、先輩が怖そうだったのですぐドアを閉めて引き返してしまった(笑。軽音楽部室から戻る途中の写真部のドアを開けてみたら、ものすごく人懐っこい笑顔で迎えられ、そのまま入部。それがすべての始まりです(笑。


それはさておき、写真家になった今も、音楽が写真に与える影響は重要だと思っています。

◉普段よく聴く音楽
・80年代のロック
・気分が乗るとエド・シーラン

◉撮影に行くとき聴く音楽
・ビル・エバンス
・アンビエント系
・ネイチャー系

とはいえ撮影現場では、あまり騒音に囲まれないようにしていて、撮影中は聴きません。

音楽は記憶と直結しているので、ある種の音楽により、脳が刺激されてイメージが湧いてきます。だから、聴く音楽がジャズかブルースかポップスかで撮れる写真も違うのではないでしょうか。

◉ちなみに小澤先生が撮影中聴くのは…
サハラでは『無』。物理的な「充電できない」という理由による。冗談はさておき、砂漠での撮影中は風の音を聞いている。「なにもない」ことが生み出す音を聞いている。最近よく訪れている日本国内の旅では、音が溢れていると実感。日本には、鳥の声や葉っぱのそよぎなど、たくさんの音がある。

ーー【質問】サラリーマンから写真家への道はどんな風に歩んだのですか?
順番を追って話します。

◉大学写真部時代
学校の休みに、乗り鉄の山口くんに誘われトワイライトエクスプレスで北海道へ行くことになったんです。そこで初めて北海道の風景と出会いました。

以下は、写真部で作成した名簿ですが、この名簿上ではやくも「プロカメラマンになる」と宣言しているんです。


◉就職活動時代
大学卒業後の進路として、始めは写真スタジオに入ろうと考えていました。理由は都内の有名スタジオに写真部の先輩がいたから。しかし時はバブル崩壊後のタイミングで、いざ本気で行こうとしたら「来ないで」と言われてしまいました。

◉就職後
「まじか…」と思い、そこで一般就職を決意しました。働きながら楽に写真が撮れそうな仕事としては、公務員がいいだろうと判断し、入職。ところが入ってみると期待に反して配属部署が忙しく、23時まで仕事する羽目になりました。こんなんじゃ全然写真が撮れないじゃないか‥と退職に舵を切ることに。しかし当時勤務していた自治体で事件があり、扱う書類が全部持っていかれる計画外の事態が発生。予定より退職時期が2年伸びてしまいました。

とはいうものの、裏では粛々と移住計画を進めており、しっかり美瑛に土地を買って家を建設していました(笑。退路を断ちたかったんです。信用がある公務員のうちに、できる限り資金調達しておきたかったのも理由の1つです。

◉写真の初仕事
写真の初仕事としては、市役所勤務時代の2009年に、JALグループ機内誌SKYWARDの仕事を得ている。

もちろん公務員は副業不可なのだが、執筆活動はOKというグレールールがありました。そこで、例外的にJALから市に「カメラマンとして同行依頼する」旨の要請を入れてもらい、正式に職場の許可を得て、写真掲載に至った思い出の仕事です。

そのとき「プロとして仕事をするというのはこういうことなのか。楽しい…。」と感じました。

◉決意のとき
その後、2011年キヤノンギャラリー銀座の公募通過の連絡が来ました。この出来事でスイッチが入り、公務員の仕事をやめる決意ができたんです。写真て食っていけるあては何もないが、もうそのとき決めました。それが2011年の秋です。

◉転機
2016年キヤノンの企画「The Photographers3」に写真家として選出されました。この企画以降はキヤノンからの仕事がメインになります。

2016年にはもうひとつ、ターニングポイントとなる写真展「ordinary」をリコーギャラリーで開催させていただきました。この展示が実現したのは、高橋真澄師匠のおかげです。師匠の使用機材がペンタックスで、そのご縁で展示できました。

ーー【質問】影響を受けた写真集を何点か教えて下さい


◎高橋真澄
『NORTHRAND IMAGE』(1992年)
実は、初めて北海道に行った頃、前田真三を知らなかった(笑。高橋真澄先生の写真集を購入したのも、空港の土産物屋さん(笑。それくらい、いろいろ何も知らなかった。

◎星野道夫
『風のような物語』
木村伊兵衛賞受賞作。

◎エルンスト・ハース
『The Creation』
旧約聖書の考え方で作られた作品です。天地創造。今流通しているのは古本しかないと思います。

◎マイケル・ケンナ
『北海道』
絶版です。中古で10万くらいすると思います。

◎川内倫子
『うたたね』

ーー【質問】セレクトはどうしてますか?

適当(笑。ちなみに、師匠高橋真澄の教えは「使えるカットを1日500撮れ」です。現実的な話をすると、雑誌によって右開き、左開きがあります。そのため、ポイントを右に置くか左に置くかは雑誌によって違います。だから、どんな媒体にも対応できるよう複数バリエーションを撮るようにはしています。

さいごに
最後までお読みいただきありがとうございます。ご覧の通り、中西先生に時間いっぱいまで熱のこもったセミナーをしていただきました。非常に内容の濃い超有料級のセミナーで、参加した会員の脳内処理はフル活動。頭に熱がこもりっぱなしの2時間でした。中西先生、本当にありがとうございます。超絶感謝です!

以上で例会は終了です。みなさまお疲れさまでした。